DJIの主張

 文書基本法の必要性

小川 千代子(国際資料研究所)

 

2001年度、諸外国の文書館事情についての調査を行った。各国の国立アーカイブを対象として行った調査である。この中で、法令について質問したところ、古くは18世紀から、最近では2001年に制定されたものまで、各国の法令のありようを知ることが出来た。アーカイブとは、「公文書館」以上に「保存文書」であり、その存在は各国それぞれの歴史と独自性の根拠資料であることが、法令に含まれるアーカイブの定義から浮き彫りにされてきた。それとともにアーカイブ法とは文書の保存にかかわる基本法の色彩が強いことが非常に鮮明となった。

 

日本の場合は、これに該当するのは公文書館法及び国立公文書館法ということになろうが、そこには「歴史資料として重要な公文書等を保存し利用に供する責務」が盛り込まれている。だが、諸外国の事例を見ていくと、アーカイブ法とは文書基本法とも言うべき意味合いを帯びていることが見て取れる。アーカイブ法を所轄するアーカイブ当局は、その国の政府内文書の発生から最終処分までを統括し、文書情報の管理に責任を持つ、ということがほぼ共通している。つまり、アーカイブ当局とは現用文書の文書管理に始まり、時間の経過に従い非現用文書=保存期間満了文書となった元現用文書の最終処分に至るまで、一括して面倒を見る、という仕事を担当する「お役所」なのである。筆者はこの「お役所」に当たるものとして「記録管理院」を構想した。

 

この記録管理院構想の土台として、必要なのは文書基本法である。現在は規則や規程で定められている文書事務のそれぞれについて、改めて見直してみたい。その文書事務とは誰のために、何のために、どのような財源を以って執り行われるのか。すべての政府の業務は税金によってまかなわれている。業務の遂行にあたっては、文書主義、すなわち根拠となるべき文書の形で記録され、その記録された文書に基づき合意形成と意思決定が行われる。政府の合意形成と意思決定の手続きは、文書なくしてはありえない、これが本来の姿である。そのことが、日本では法律ではなく、組織ごとに規則または規程などの例規によって定められているので、統一的な文書管理の方法は見えてこない。

 

憲法、民法、刑法があり、教育に教育基本法があるように、記録された文書について文書基本法を持つことは、むしろ理の当然である。そうした基本法は当然ながら、文書を総体的に統括する役所の所轄法となる。文書管理制度、情報公開制度、そして公文書館制度は、記録管理院が所轄する文書基本法に基づく運営実施が行われるようになって、初めて日本の記録と文書の管理は本来的な姿を見せることとなろう。そう考えるにつけても、どうしても欠かせないのは、文書基本法の制定である。21世紀の日本を世界の中できちんと位置づけるには、確実な記録の管理に基づく政治と外交が欠かせない。このためにも、文書基本法の必要性は明らかである。文書基本法の早期実現が強く望まれる。

DJIバイマンスリーレポート No.48 20030115 )


DJIの主張

 文書基本法大綱作成に向けて

                     小川 千代子(国際資料研究所)

 

記録管理院構想、文書基本法の必要性の2つの柱について本誌前号、前々号で述べてきた。ここから先は、文書基本法大綱の作成をめざしたい。

 

まず、今日のグローバルな情報交換と情報技術の普及を念頭に置く必要がある。情報に関する法令の国際協調とルールの標準化が強く求められている現状を認識しなければならない。

国際文書館評議会保存記録(アーカイブ)法制委員会ICA/CLMが1996年のICA北京大会に提出した「保存記録と現用記録に関する立法の諸原則」最終報告書がある。これはJANUS 19971月号に掲載された。そこでは各国のアーカイブと現用記録の管理に関する中央政府の法令の標準化に不可欠の諸原則を次の15項目に整理して示している。

 

表:ICA保存記録(アーカイブ)法制委員会最終報告書の構成

1.  序章

6.        公文書館の職務と機構

11. 評価と廃棄

2.  現用記録とアーカイブの定義

7.        全国的文書保存機関協力体制

12. 移管

3.  適用範囲

8.        上部機関と任免権者

13. 整理と検索手段の作成

4.  政府記録の譲渡禁止と時効不適用

9.        助言機関

14. 利用

5.  民間出所の記録

10.     記録管理

15.  罰則

 

各国のアーカイブ法を見ていくと、そこには政府の業務が文書主義によって遂行され、そのために作成される文書は行政財産であり、納税者である国民、住民が共有すべきものと位置づけられていくことが見えてくる。とりわけ、納税者一人一人にかかわる記録が、100年200年もの期間、確実に保存され、それが数十年という時間を経て個人情報の保護期間を満了した後に一般に公開されていくという「ルール」を見ることが多い。政府の業務として作成される記録が第一義的にはその業務遂行のために利用されるのは当然である。

しかし、業務遂行が完了した後に残る記録は、業務の実施に当たった政府がその所有権を有するのではなく、納税者に帰属する財産として扱うべきこと、業務遂行上情報公開制度その他の開示制度では対象とされない秘密指定を受けていた場合であっても、時間の経過と共にその秘密が解除されるべきこと、個人情報であっても、あるいは国家機密であっても、長期保存するものであればいつか必ず公開利用に供される日が到来するシステムが構築されるべきことが、諸外国の保存記録(アーカイブ)法令を眺めていく中で見えてくる。

保存記録(アーカイブ)法令で見えてこないものもある。それは、組織的な業務を遂行するのに必要な情報は必ず記録として固定し、固定された記録=文書を組織の共有情報源として取り扱わなければならない、といった事柄についてのきめごとだ。その意味で保存記録(アーカイブ)法令はあくまでも保存すべき記録についての法令であり、発生段階の文書と情報の関係についてのきめごとまでは踏み込んでいない。

 

日本にふさわしい文書基本法は、情報の共有化のためには情報の固定化が必要であり、その手段として文書なり記録なりを用いる、という段階から文書の最終的な処分に至るまでの取り扱いを包括的に表現したものでありたい。そして、DJIレポートでは、文書基本法大綱の作成をこれからしばらく継続的検討課題として取り上げることとしたい。

DJIバイマンスリーレポート No.49 No.49  20030320

 


DJIの主張文書基本法大綱作成に向けて(2)

米国連邦政府の文書管理法制の枠組み

 小川 千代子(国際資料研究所)

 

わが国の文書・記録管理制度は世界に遅れていると言われている。では“文書・記録管理先進国”の関連法はどのようになっているのか。今回、米国連邦政府における記録管理関連法をみておこう。

米国連邦政府の文書・記録の管理に関する法規類としては、連邦政府における記録管理について定めた合衆国法典第44条(United States Code Title 44「印刷及び文書」と、連邦規約集第36条第12章(Code of Federal Regulations Title 36, Chapter XII「国立公文書館記録管理庁」が中核である。

このうち合衆国法典第44条は連邦政府の印刷及び文書について定める22章で構成され(表1)、そのうち第21章「国立公文書館記録管理庁」、第29章「合衆国アーキビスト及び総務長官による記録管理」、第31章「連邦政府による記録管理」、第33章「記録の廃棄」の4章(表中太字)が、文書・記録管理についての定めである。

また、連邦規約第36条(Parks, Forests, and Public Propertyの第12章は、国立公文書館記録管理庁(National Archives and Records Administration;)の組織及び機能を定めている。第12章には7つの見出しで構成され(表2)、そのうち具体的な文書・記録管理を定めたのがB「記録管理」である。

B:記録管理の項には、1220. 連邦記録;一般/1222. 連邦記録の作成及び保管/1228. 連邦記録の廃棄/1230. マイクロ写真記録管理/1232. 視聴覚記録管理/1234. 電子記録管理/1236. 重要記録管理/1238. 記録管理プログラムに対する補助、の7項目がある。その内容は詳細で、各項目が日本の一法令に相当する構成をもつといえよう。米国の文書・記録管理についての定めは極めて細部に渡っている。

表1:合衆国法典第44条の構成

1. 印刷に関する合同委員会

13. 報告書及び資料

23. 国立公文書館信託資金委員会

35. 連邦情報政策に関する協力態勢

3. 政府印刷局

15. 『官報』及び『連邦規定集』 

25. 国家歴史記録及び刊行物委員会

37. 政府機関による広告

5. 製造と印刷及び製本に係る物資調達

17. 公的文書の配布及び販売

27. 米国議会記録に関する諮問委員会

39. 政府印刷局:検察官室

7. 米国議会における印刷及び製本

19. 寄託図書館制度

29. 合衆国アーキビスト(国立公文書館長)及び総務庁官による記録管理の責務

41. 連邦政府電子情報へのアクセス

9. 米国議会記録

21. 国立公文書館記録管理庁

31. 連邦政府による記録管理

 

11. 行政及び司法部における印刷と製本

22. 大統領記録

 

33. 記録の廃棄

 

 

 

表2:連邦規約第36条第12章の構成

A 一般的規則

B : 記録管理

C 閲覧と利用

D 閲覧制限解除

E 大統領記録

F ニクソン大統領文書

G NARA施設

 

(原文はhttp://www.access.gpo.gov/nara/cfr/cfrhtml_00/Title_36/36cfrv3_00.html#1200;本稿の米国法令関係情報及びその翻訳は財団法人沖縄県文化振興会公文書管理部公文書専門員仲本和彦氏にご提供いただきました。)

 

DJIレポート No.50  20030531)
DJIの主張文書基本法大綱作成に向けて(3)


国際資料研究所の文書基本法骨子案、発表

 小川 千代子(国際資料研究所)

 

かねてより文書基本法の必要性について主張してきた国際資料研究所が、これまでの主張に基づき文書基本法骨子案をまとめた。文書主義による国の機関の業務遂行を法的に確認し、その業務遂行上で発生するすべての文書を納税者の共有財産と位置づける。地方公共団体は条例でこれに準拠する。文書の発生、管理、保存、利用のあらゆる側面を包括する記録管理院に法を所掌させること、及び文書の取扱いについて罰則を設けることを確認しているところに特長がある。

 

国際資料研究所作成 文書基本法骨子案

 


法律の目的

国の機関等の業務遂行における「文書主義」の確認、およびその業務遂行上で発生するすべての文書は、基本的には納税者に帰属す共有財産であることにかんがみ、その取り扱いの原則を定める。地方公共団体はこれに準じて条例を定める。

 

文書の定義

媒体・形式の如何を問わず、業務遂行上で必要な情報を固定した記録のすべては、「文書」と定義する。

 

「ライフサイクル」の定義

文書のライフサイクルとは、文書の発生から最終処分までの全期間で、現用段階と非現用段階がある。現用段階では事務遂行にかかわり意思決定の段階、実施の段階、参考利用の段階に細分化され、非現用段階では保存期間満了後に長期保存文書<=アーカイブ>としての保存、または廃棄に二分され、アーカイブ保存では公文書館施設がその保存と利用提供を担当する。廃棄については、その文書そのものを物理的に削除抹消すると共に、廃棄したという「行為」についての記録を作成してこれをアーカイブ化する必要がある。文書基本法はライフサイクルを連続的に包括管理する。(次頁図参照)

 

アーカイブの定義

翻訳JIS9020=ISO15489の下記定義を用いる。

a)個人または組織が作成・収受したあらゆる媒体・形式の記録であって、歴史を証すため半永久的に保存するもの
b)a)の保存・利用のための施設
c)組織全体の記録の管理をもっぱら統括する部署・部門。

 

文書の作成

国の機関等での業務遂行は、根拠をもって遂行しなければならない。「文書主義」の確認。このためには、根拠となるべき情報はすべて文書として記録化し、その業務にかかわる職員はもちろん、情報の公開を求める人に対しても情報共有化が行えるよう、備える必要がある。これは、国の事務遂行に関する説明責任の根拠となる情報基盤形成である。文書は、情報公開法による現用文書の開示(保存期間満了まで)、及び公文書館法による非現用文書の利用(歴史資料として重要な公文書等で無期限)の対象となる。

 

文書の管理

文書の管理は、現用、非現用の各段階でその手法が異なることを確認する。

文書の物理的管理責任者は、現用段階ではその事務遂行を行うものであり、非現用段階では記録管理院となる。

 

文書の保存

現用文書の保存期間は常に見直す。保存期間の決定の最終責任者は記録管理院である。

非現用文書は、国の歴史を将来に証明するべきものを選んで、公文書館に保存する。非現用文書の選別と処分権限は記録管理院にある。記録管理院以外の国の機関は、保存期間を満了した文書の処分をするには記録管理院の承認を必要とする。

公文書館に収蔵される文書の保存責任は記録管理院にある。    

       

文書の利用

現用文書は、事務遂行に第一義的な目的として存在するが、情報公開制度に基づく開示請求により何人も原則としてこれらを利用することができる。ただし、個人情報保護制度による制約がある。

非現用文書は、何人も公文書館で利用することができる。ただし、個人情報保護制度による制約がある。

不存在のものについての情報も、公文書館で確認することができるよう、非現用文書の所在、処分情報は記録管理院がこれを整備する。

 

罰則

文書の不作成、私物化、改ざん、非公式な廃棄、不正手続きによる処分、その他悪意ある取扱いは罰則の対象とする。

 

記録管理院の役割

記録管理院は、文書基本法を所管する独立の役所である。

行政各府省、立法、司法を含む国の機関における文書の発生から最終処分までを、行政財産(又は国の情報財産)として連続的な存在ととらえ、その管理を行う。

国の機関における文書及び記録、情報源の物理的管理の枠組み作りについては、記録管理院が担当し、そのために国の機関に対する指導・助言・監督・監査を行う権限を有する。

国の機関の文書記録管理のきめごとは、すべて記録管理院の長の承認を得なければ発効しない。

文書の管理に関連する分野、特に業務上のつながりだけでなく、その文書が持つ情報資源としての様々な側面に関連する、総合的な視野での検討を行う。


 


 文書   は不変、環境は変化:「文書基本法」が文書のライフサイクルを包括管理する!



文書管理   文書の収受・起案     施行後保管      オキカエ     保存期間満了

業務動作  受け取る、 作る 、使う     仕事で参照    参考用保存  処分      ■アーカイブ     文書             

                                                                                                                      文書 

公文書館で

保存・利用

 
文書               文書         文書        文書 文書     文書     

保管場所                                                                                                  文書     

    事務室の使いやすい場所     ⇒使いにくい場所 ⇒中間文書庫    ゴミ箱

                   

     

適用法律      現用=情報公開法&n